映画『ドライブ・マイ・カー』見た
5/18に見た映画。
3時間ある映画、果たして見られるのだろうか……と戦々恐々としながら見に行きましたが、寝ることなく、飽きることなく、ダレることなく見られたので、なるほどアカデミー賞、とは思いました。(長編国際映画賞)
ところどころ、ん?と引っかかるところはあったものの、まぁ村上春樹だしな……ですべて納得できてしまったので、村上春樹は偉大。ほとんど読んだことないけど。
▼原作の短編集
「ドライブ・マイ・カー」だけでなく、ほかの短編もちょっと盛り込んでいるらしい。
広島でのロケで、ごみ焼却施設のシーンがあったのですが、こんな場所があったんだと知ることができてよかったです。以下Wikiより。
ここで当施設が原爆ドームと原爆死没者慰霊碑を結ぶ平和の南北軸の延長線上にあり、丹下健三の弟子でもある設計者の谷口吉生が、「自分の建物で師匠の軸線を止めるわけにはいかない」と、平和の軸線を遮らないよう建物の中央を吹き抜けのデザインにして海まで抜かせている
主人公が演出家兼俳優で、芝居が盛り込まれているのが個人的には興味深かったです。
『ゴドーを待ちながら』を、あれはロシア語だったと思うのだけれど、日本人とロシア人(ロシア語話者)がそれぞれの母語で話していて、観客向けには字幕が出るというもの。
観るのも演るのも、通常の演劇よりやや負荷があるのではないかと思いますが、優れた戯曲を優れた俳優が演じれば、セリフが外国語でも理解はできるだろうと常々思っていて。
というのも、わたしはどうも、舞台のセリフを聞き取るのがあまり得意ではないようなのです。何言ってるのかわからんなーって思いながら見てること多々ある。それは役者さんの問題である場合もあるのですが、たぶんわたしも純粋に音声の聞き取り能力があまり高くない。音自体は聞こえています。発音の聞き分けとかスピードとか、そのあたりの要素。舞台のセリフを聞きながら、一方で脳内でさっきのセリフを再生して、遅れて理解する、なんてこともしている。なので隣の人と笑うタイミングが微妙にずれたり。録音チャンネルと追っかけ再生チャンネルを2つ動かしている感じ。それはそれで高機能ですね。普段の会話はたぶん音声以外の要素でもって補って聞いているのだと思う。
で、そんなわたしが、すぐにはよく聞き取れないけど、めっちゃ意味がわかる、と思いながら見ていた役者さんがいて、それが文学座の渡辺徹さんです。えぇあの渡辺徹さんです。文学座所属だったのですよご存じでしたか。何年か前に文学座メインの芝居に出てらして、その時に観て衝撃を受けたのです。セリフの文学座と言われるだけあって、どの役者さんのセリフ回しも素晴らしいのですが、その中でも渡辺さんはびっくりするほど意味が伝わってきて、これ外国語だとしてもわかるなと思ったのです。
なので多言語芝居も、ありだなって思います。
あと、芝居上で「明らかに何かが起こっている」というシーンも盛り込まれていて、よかったなぁと思います。
ワーニャ伯父さんの稽古で行き詰っていたある役者さんが、別の役者同士が演じるのを見て、そこで彼らに何かを見るというもの。外で稽古をしていたシーンでしたが、外で試すというのもまたよいですね。
いい芝居というものは、役者の内に明らかに「ほんとうの何か」が起こっていて、それが自分の内側に触れて共振を起こすのです。
ほんとうのこと、を追求するために、役者は訓練し、研鑽を積んでいるのです。
ところでひとつだけ、気になったことがあります。
それはオーディションのシーン。その日初めて会う男女2人が、ワーニャ伯父さんの1シーンをいきなり演じることになります。
双方の役者があらかじめやりたいと提示してきたシーンが合致したので、オーディションでやってもらうことになったのですが、どうやら濃い身体接触のあるシーンだったのです。
それを初対面でいきなりやるというのは……どうなのかしら???
たとえ稽古であっても事前の断りや打合せなしに他人の身体に触れるのはマナー違反だと思います。肩くらいなら人によっては許容範囲かもしれませんが。ましてや濃い身体接触であるならば、慎重におこなうべきです。脅威的な身体接触もしかりです。
映画の中では男性の俳優が、女性の俳優に対して、まずは壁に追い詰めていき、彼女の口をわしづかみにする形で右手で覆いました。そのあと、女性にキスをしました。
わたしが演出家だったら、女性の口を抑えた時点で止めるかなと思います。(演出もキャスティングもやったことないけど。)追い詰めてる時点で女性が素で戸惑っていたように見えたから、その前に止めてもよかったかもしれません。
事前に打ち合わせありだったらまだいいですけど、いきなりはちょっと。
あとさすがにオーディションではキスはなしです。役だったらなんでもやっていいわけじゃないぞ……。そして役だったらなんでも平気なわけではない。
ワーニャ伯父さんを読んだことも観たこともない潜りなので、青空文庫でワーニャ伯父さんを見てみたのですが、たしかここだったかしら……という箇所には、「脅かす」とか「相手の口を封じる」というト書きがありました。
一連の芝居は男性俳優の解釈によるものだと思うのですが、激しめに演じたんだなぁという印象。
一方、女性の役者は、ここまで接触するシーンになるとは思っていなかったんじゃないだろうか。
激しいのは結構なのですが、はじめましてのオーディションでそこまでの芝居を選択するのは、相手役に優しくないし、なんかちょっとヤバそうなので、わたしだったら採らないぞ……と思います。
実際、舞台直前で降板となるトラブルを起こしましたが……え、そういう伏線??
結局、主人公である演出家がその役を演じることで幕を開けたのですが、ワーニャ伯父さんのラストのシーンもとてもよかったなぁと思います。
で、もう配信始まってたわっていうね。