『「書体」が生まれる:ベントンと三省堂がひらいた文字デザイン』
図書館の、おすすめだか、いま人気です、なのか、なんかそんな感じで出てきてたので借りました。文字好きなので。いつ予約したのか覚えてないけどだいぶ待ったような。
「ベントン彫刻機」を通した三省堂の歴史、といった本です。丁寧に取材されてまとめられています。
ちなみにこの本は三省堂から出ています。もともとは三省堂のホームページに連載として載っていたようです。
三省堂とか、ベントン彫刻機(初めて聞いたけど)に興味のある人向けかな。あと戦前の活字周りの様子とか。
三省堂って歴史が古いんですね。
創業は明治。もともとは「三省堂書店」。それの出版・印刷部門が大正時代に独立したのが「三省堂」。現在、資本関係はないそうです。へー。(Wikipedia情報)
活版印刷においては、小型の辞書をつくれる、というのが最高峰だったようですね。
薄くて丈夫で裏写りしない紙と、小さくても鮮明な活字。それを目指して各プロが開発を進めていく……さながらプロジェクトX。このあたりもうちょっと読みたかったな。個人の好みです。
活字は、昔は職人による手彫り。日本語には膨大な文字数が必要。すべての字を彫るのも時間がかかるし(ひとつの文字をひとつだけ彫ればいいってもんでもないよね、よく使う文字はどれくらいつくるんだろう……)大きさが違うものも揃えないといけない。活字を一からつくるには、とてつもなく時間がかかる。人気の職人は、確保するのが一苦労。一人前になるにも10年以上かかる。あと職人として腕はよくても、そこはほら、職人気質、トラブルをさけながら最後までつくってもらうのも大変。
ということで、海外製の「ベントン彫刻機」という機械を導入し、活字を作成していくことを目指していった過程が語られています。
この彫刻機、彫る部分が一部平らになっていたこともなり、細部がシャープには彫れなかったそう。
そうすると、やはり手彫りに比べて、字が死んでしまう、そうで……
なんか気持ちはわかる……と同時に、そういう微妙なところが分かる人が技術畑でもたくさんいるんだな!と嬉しい。
ほんのちょっとの違いで、文字が生き生きしていたりするのですよね。そういうの、職人はカンでやってるのかなんなのか、とにかく違うのよね。
文字が生きている方がいいのは重々承知だけれども、要は読みやすい活字ができればいいということで、彫刻機を導入していく流れになったそうです。
それはね、しょうがないですよね。何かを得たいなら、何かを失うこともあるわけで。
あと、偏と旁を分けてつくっておいたら効率よくない!?と試したこともあったようです。いや……それは無理やん……と読みながら思いましたが、やっぱりできなかったそうです。
だよねそれこそ文字が死ぬわ。同じ旁だとしても、文字によって微妙にバランス違うでしょう。
いまはもう、活版印刷の本は出てないかな。70年代にはまだあったよね。
わたしが子供のころはまだ普通に手に取れていた気がするな。
紙面が凸凹しているの、なんか好きなんだよな。
そういえば、「カナモジカイ」のことにも触れられていたな。
日本語ってひらがなもカタカナも漢字もあってしかも漢字多すぎだし習得コストがかかって欧米列強に勉強で遅れをとるから、とりあえず漢字廃止しようぜ、って論が出てきたことがありましてね。大正時代あたり。
そのときに、カタカナをメインにしようぜ、って言ってたのがカナモジカイ。(ローマ字にしようぜ!派もいた。)
で、読みやすいカタカナの書体をつくったり、募集をしたりしていたというのですね。
募集要項の書体の条件も載せてあったのですが、本気やん。本気で文字が好きな人たちやん。と思ってニヤニヤしました。
ちなみにわたしは分かち書き嫌いだし、漢字かな混じりでOK派です。膠着語で分かち書きってなじまなくない?
閑話休題。
全体的には、先にも述べたように、ベントン彫刻機を中心にした三省堂と活字の歴史、といったところ。
わたしは文字に興味があるので、ちょっと嗜好が違ったなという感じでした。
職人さんの話とか聞きたい。あとは、この文字はここをこうしてこうすると、こうだ、みたいな話。
わたしの好みは置いておいて、歴史を丹念にまとめた、という点では価値のある本だと思います。